エクイアを用いたう蝕修復

46,47咬合面CR不適合が認められます。

問診によると8~9年前に同時に処置を受けたとのことです。なぜ47のCR辺縁が著しく着色し、ほぼ脱離してしまっているにも関わらず、46は47と比較して軽度の辺縁着色なのでしょうか。
おそらく防湿不充分が原因であると考えられます。
下顎最後臼歯部は舌と頬粘膜、さらに唾液も滞留しやすく、ラバーダム未使用では完全な防湿は不可能です。
CRの接着において防湿は切っても切り離せないほど大切なポイントです。
グラスアイオノマーのように材料自体に歯質接着性がないため、唾液や呼気で容易に接着が阻害されます。

接着していないCRはプラーク・リテンション・ファクターの増加につながり、2次カリエスの誘因となります。


なぜ8~9年もの長期間で軽度の進行で済んだのでしょうか。おそらく咬合面という自浄域であるため進行が遅延した可能性と、プラークコントロール良好であるためであると推測されます。
このように一つの症例でも「2次カリエスだから削って詰めましょう」ではなく、現状の分析から過去の治療の痕跡や推測ができます。

場合によっては重要な事項が隠れている可能性もあるわけであり、短絡的な意思決定に陥らないよう意識する必要があると思います。どんな治療でも最も大切なのは診断ではないでしょうか。診断が間違っていたら治療の成功などありえません。

歯冠部カリエスのレントゲン診査の基本はバイトウィング法です。

46,47ともにCR下部にエックス線透過像が認められ、歯髄の反応性の退縮が認められます。

保存修復学会のう蝕治療ガイドラインでは象牙質3/1を超えたものが切削の対象となる点と、進行予防および審美的観点より治療を希望されたため施術に至りました。

CRおよび軟化象牙質除去後の写真です。黒色部分は着色象牙質であり、削除の対象ではありません。
色ではなく、う蝕染色液やエキスカベータを用いて軟化象牙質を可及的に除去することがMI概念において大切な事項です。着色はオペークで遮蔽可能です。


今回は患者さんと相談の結果エクイアにて充填処置を行いました。エクイアは高強度グラスアイオノマーとレジンコーティングを併用した方法で、主にヨーロッパで普及している治療方法です。
グラスアイオノマーの欠点である表面性状と機械的強度をレジンコーティングによって改善されています。
歯質接着性、フッ素徐放性、生体親和性など良好な点が多く、なによりマージンラインに全くステップができないためプラーク・リテンション・ファクターが極めて低く二次カリエス発生率を大幅に下げることができます。しいて言えば審美性にやや難があるので前歯部には使用することは難しいです。
今回のケースのように非審美領域かつ力学的負担が低い部位(小窩裂溝部の力学的負担は低いです)に最適であると考えております。

写真では色調が浮いているように見えるのですが、実際はかなり馴染んでいるので患者さんは喜ばれておりました。
グラスアイオノマーの硬化・結晶成長は初期硬化後も続くので、より透明性が増し審美的になっていきます。


1か月後の経過観察時。透明性が向上しています。現在のグラスアイオノマーは過去のものとは機械的性質、審美的観点からもまったく別の材料です。

グラスアイオノマー自体に歯質接着性とフッ素徐放性があるのでCRと比較すると安心感が違います。


ラバーダムを使用しているので防湿の問題はクリアできているのですが、歯頚部のように防湿困難なケースでもばっちり接着してくれます。

メーカーの研究員の努力は本当に素晴らしいです!
ちなみに48は本人の意向により涼しくなってから抜歯する予定です。