審美性の獲得と歯牙保存に苦慮したケース

11ポストコアごとダツリを主訴に来院され、審美性の改善も合わせて希望されたケースです。
11の状態は、垂直的に残存歯質が少なく、歯根歯質が極めて薄く、デンタル上で根尖病巣様透過像を認め、根尖が著しく崩壊している という極めて困難な状態でした。
さらに21、12ともに強い変色を呈しており、審美性の獲得に苦労しました。



11に関して、本人の保存への強い希望と10年予後を保証できないことを覚悟していただけるとのことで、保存的処置に踏み切りました。
歯肉縁上の歯質が極めて少ない場合の根管処置で困るのが、ラバーダムを装着できないことです。
ラバーダムを使用した根管治療と、そうでない根管治療の予後の差は大きく、ラバーダムを装着するだけで20%以上の差が出たという論文もあるほどです。
「根の治療の成功率は50%なのに対し、インプラントの成功率は99%だから、インプラントにしましょう」
といった後ろ向きの説明の前に、ラバーダムを装着し少しでも成功率を上げる努力をする姿勢は大切だと思います。
来院当日は軟化象牙質の除去・CRによる隔壁処置を施し、TEKを装着しました。


可能な限り根管内から感染物を除去し、3%次亜塩素酸ナトリウム+3%EDTAにて徹底的に洗浄を行い、水酸化カルシウムをレンツロにて根管内貼薬を行いました。

アピコエクトミーも視野に入れつつ根管処置を終え、ファイバーポスト+CRにて支台築造処置を施しました。


最近は前歯部の根管処置において写真のように多数歯を露出させ、ウェジェットで止めています。

クランプより器具の操作性が良く、クランプより痛みが少ないです。

ラバーダムが初めての患者さんは苦しかったり、痛みが出やすいのですが、

慣れてくると「ラバーダムしていたほうがオエってならないし、口が自然に開くから楽」と言っていただけます。

私もかつてはラバーダム無しで治療をしていましたが、最近ではラバーダム無しの治療は考えられなくなっています。

安心感が格段に違う上に、治療後の「しみる」「痛い」などの不快症状が激減しました。

防湿・感染のコントロールがこれほどまでに大切だったとは・・・身に染みて実感しています。
約4カ月後のデンタル上で、11の根尖部透過像は消失方向に向かっています。


22の根管治療後、CRにて最終修復を行いました。
十分な残存歯質がある場合に大きく削ってクラウンを入れる意味合いは、

現在の接着修復治療の躍進を考えると、オーバートリートメントであると考えております。

口蓋側のキャラクタライズも行っていますが、見えないところなのでそれほどナーバスになる必要性はないと思います。

東南アジア系の人種では辺縁隆線の発達が著しく、シャベル状を呈している場合があります。

モンゴロイドの特徴でもあるのですが、人によって程度の差がありますので、臨在歯や反対同名歯を参考にすると良いでしょう。

こういうマニアックな話になると止まらなくなるので、興味がある先生は金澤英作先生の「日本人の歯とそのルーツ」(わかば出版)をご参照ください。ディープで面白いです!

ホワイトニング後
ホワイトニング後
初診時
初診時

11の歯冠幅径が臨在歯との調和を目的に隣接歯面の削合調整を行いました。

21、12ともに隣接部にCR修復が施されている状態であったため、健全歯の削合は必要最小限で処置しました。
さらに21、12にオフィスホワイトニングを2回施術しました。写真上でもシェードが上がったのが確認できると思うのですが、

本人が希望する明度に到達することができませんでした。


ウォーキングブリーチは時間的な都合上(一生残る写真撮影を控えている)、本人からの承諾を得ることができなかったため、

ダイレクトボンディング(ダイレクトベニヤ)にて色調改善を試みました。
変色をカバーするにはCRの厚みが必要です。厚ければ厚いほどカバーしやすいのですが、そのためには唇側クリアランスが必要です。
私は必要のない切削を行わない治療方針であるため、今回のケースでも唇面の健全部位を削らずにダイレクトボンディングを行っております。故にCR層を極力薄くしないと、歯だけが盛り上がったような不自然は形態になるだけでなく、カウントゥアが強くなるため、自浄性が劣ってしまいます。
そこで使えるのがジーシーMIフローのWO(ホワイトオペーク)です。少量で強力に遮蔽してくれるため、CR層を厚くすることができないケースに適用できます。切縁部の充填でCRボリュームを確保できないが、色調がオペーキーで透明性を許容できないケースでも威力を発揮します。
WOはBW(ブリーチングホワイト)のような自然な遮蔽性ではなく、ボリュームを間違えるとベタっと白くなります。さじ加減が繊細なので注意してください。
色調がA系統ではなくB1~2となりましたが、臨在歯との違和感は少なく本人の希望する明度に到達することができました。


11はセラミッククラウン(ジルコニアフレーム)にて最終補綴を行いました。

初診時
初診時

たとえ状態の悪い歯でも重度の変色でも、安直な方法に逃げず

必要最小限の介入で主訴を改善できるに越したことはないと思います。
歯が残っていれば次の一手があります。

ダイレクトボンディングで改善が見込めない場合はラミネートベニヤやフルカバレッジの選択肢があります。

11に関しても、残す努力をすることで選択肢の幅が広がります。

たとえ抜歯になったとしても

「抜歯に至るまでの時間を天然歯で確保でき抜歯時期を延ばすことができた」と考えることができます。

北欧的思考ですね。
患者さんに複数の選択肢を提示できることもMI治療の利点ではないでしょうか。
ブリッジやインプラントを入れた後に「やっぱり抜いた歯をもどす、削った歯を元に戻す」ことはできません。

患者さんの希望を真摯に聴くことが非常に大切です。

聴くことと話してもらうことは、流暢に話すことよりも何十倍も大切であり、難しいです。

患者さんがよく「歯医者に抜かれた」とお話しされるのはこの点に問題点があるのではないでしょうか。

5分でもいいのでしっかり患者さんの話を聞いてください。明日からの臨床が変わります。