小臼歯には大臼歯に近い解剖学的な傾向を示す場合があります。今回のケースでは小臼歯の根管が3つあり、大臼歯傾向が強く、補綴を含めて苦慮したケースを紹介します。


デンタル上にて遠心根管の処置が施されていないのが確認されます。
小臼歯=1か2根管だという先入観があると、このような見逃しを誘発しかねません。
また、拡大環境による直接観察をすれば容易に発見できます。
根管治療を裸眼で施術することは、それだけエラーを誘発しうる原因となりえます。
幸いにも遠心根尖周囲組織にはエックス線透過像が認めらません。

根管治療後のデンタルエックス線写真です。遠心根は石灰化しており根尖孔は穿通できませんでした。
石灰化という自己治癒で感染を食い止めていたのだと考えられます。
生体の治癒能力には感心させられます。


ファイバーコアを植立し、形成後の写真です。3根あるため、咬合面観でハート型になりました。
小臼歯の形成で注意したいのが、歯牙の解剖学的形態との調和です。
今回のケースでは唇側と近心に凹部があります。
上顎第一小臼歯の近心部には介在結節が認められることが多く、それによって近心辺縁溝が形成されることがあります。
それが歯肉側深くにまで及ぶと今回のケースのように近心縦溝となります。
このようなケースで円形に形成してしまうと、凹んでいる部分の形成が浅くなりやすく、適合不良を誘発しかねません。
特にCAD/CAM冠においては、このようなV時状の凹部は読み込み不良を惹起しやすく、マージン不適につながるため注意が必要です。
CAD/CAM冠の形成は基本的にセラミッククラウンの形成と同じですが、決定的に違う点がコンピュータの介在です。
形成の基本原則に加えて、コンピュータが読み込みやすい形成をする必要があります。
マージンラインの設定において、
・マージンラインが不鮮明
・ガタツキ
・マージンラインが長いケース
・複雑な形成
などのケースでミスリードを起こしやすいです。
1度CADソフトを自分で動かしてみると分かるのですが、けっこう難しいです。
できるだけ単純・明確な形成がのちの予後にかかわると思います。
CAD/CAM冠のダツリに悩んでいる先生は是非一度、自分の形成した物を自分で作ってみてください。
原因解明の一助になります。


今回のケースでは唇側面の根分岐部の凹部と近心辺縁溝の凹部がきつく、
CADが介在する補綴では適合に不安がありました。
そのため、キャストタイプであるe-max pressにステイニングで仕上げてもらいました。
近心辺縁溝部は清掃性に劣るため、術後の清掃指導は徹底する必要があります。
セット時に圧排しているため歯肉ラインが下がっていますが、すぐに上がってきます。

術後3カ月の写真です。問題なく機能しております。
補綴する際の材料や製作方法の選択は自費or保険ではなく、その歯に合ったものを適用することが大切だと思います。
CAD/CAM冠・セラミック・メタル それぞれまったく特性が違いますし、適応症も同一ではありません。
説得ではなく納得していただくことは、とても大切なことです。