正中離開に対してダイレクトボンディングにて対応したケース

矯正治療において微小な傾斜移動や回転は短期間で結果が出ます。


しかし、欠点もあります。

 

元に戻りやすいのです。

 

 

保定に苦慮した結果、永久固定になることもしばしばです。

 

結果的に施術費用が高額になりやすく、時間もかかります。

 

つまり移動量が少ないケースは費用対効果が低いことが多いです。

 

そのため私はコンポジットレジンで対応できるケースには

 

積極的にダイレクトボンディングをおこなっております。

 

ダイレクトボンディングなら即日で確実に結果を出すことが可能です。

 

 


今回の症例は、男性の患者さんです。

 

矯正・MTMを施術されている先生はわかると思うのですが、

 

本ケースを矯正的に対応するとリラップスしやすいので注意が必要です。

簡単なケースだと思って安易に考えていると修正矯正で痛い目を見ます。

 

患者さんとの話し合いの結果、ダイレクトボンディングにて対応することになりました。

 

 


充填直後の写真です。


ブラックトライアングルが若干気になるところですが、

 

経時的に歯肉が上昇して空隙を埋めることが多いため、経過観察することにしました。

 


気を付けてほしいのが歯肉側のCRステップです。

 

ステップは百害あって一利なしで、清掃性が著しく低下することになります。

 

う蝕リスクを増加させるだけでなく、歯肉炎の危険性も高まります。

 


つまりマトリックスの使い方が重要だということです。

 

本ケースはトリオデント社のマトリックスを使用しました。

 

歯頸部からの自然な立ち上がりを再現できるので重宝しています。

 

 


一か月後の写真です。


正中離開へのダイレクトボンディングで気を付けるポイントは、充填ボリュームが不足がちになることです。

 

CRの絶対量が少ない中で再現しないといけません。

 

まず歯質による裏打ちがないので、単色充填だと黒抜けします。

 

しかも切端部に向かって充填できるCR量が減っていきます。

 

加えて、中年以降のエナメル質は透明度が高く、象牙質のシェードが落ちています。

 

3次元的にオペークを加減しつつ、ボディとエナメル・トランスでマッチさせていく曲芸が必要です。

 


簡単そうに見えて、本ケースはかなり難易度が高いです。

 

一見すると臼歯部咬合面の形態付与が複雑で難しいように見えるのですが、まったく逆です。

 


楽器演奏などでもテクニカルで早い奏法は上手に聞こえますが、逆に言うと荒が隠れます。

 

ゆったりと音を響き渡らせる演奏の方が、繊細で荒が目立ちテクニカルです。

 

サン=サーンスの白鳥をヴァイオリン素人が演奏すると悲惨なことになるのと同じです。

 


上達するためには模型上で研鑽に研鑽を重ねるしかないです。

 

ポイントは「マトリックスの選択と保持」と「オペーク」だと思います。

 

 


約3か月後の写真です。


ブラックトライアングルは気にならなくなりました。

 

歯肉は上にも上がってきます。

 


審美=女性という固定概念がありますが、男性にも潜在的なニーズがあります。

 

「矯正はやりたくないけど、その日にきれいになるなら是非やってほしい」という方が多いです。

 


歯は表情を作るパーツとしての役割が大きいです。

 

形ひとつで印象がガラッと変わってしまいます。

 

優しく見せたり、力強く威厳を出すことも可能です。

 

歯の役割はものを食べることだけではありません。

 

一種のコミュニケーション器官といえるでしょう。

 

いつの間にか症例ブログを書き続け1年が経ちました。

 

症例写真を出すことは勇気がいることですが「継続は力なり」です。

 

私の勝手気ままなブログを読んでいただき誠に感謝いたします。