セラミッククラウンによる補綴処置

近年のコンピュータを介した治療技術は目覚ましく進化しています。

歯科において特に進んでいる分野の1つが補綴処置の分野です。

保険適応となり話題となっているCAD/CAM冠をはじめ、コンピュータによる設計・加工がいつの間にか日常的になりました。

ですが、細部の仕上げは人の手が必須です。
特に上顎中切歯のように美しさが重要な部位では、コンピュータだけでは高い審美性を出すことができません。
ここ何年かで「ロボットやAIによって人間の仕事が無くなってしまう」といった意見を聞くことが多くなりましたが、

「センス」や「高度な技術」が問われる分野では決してなくなることはないと思います。

 

 


「前歯のすき間からにおいがする」という主訴のもと、診査に入りました。
恩師より「患者さんが訴えていることは、顕在化していないことを含めて必ず原因がある」と教わっています。
口腔内全部が感覚器と言っても過言でないほど、微細な感覚を検知することができます。
髪の毛1本入っているだけでも大きな違和感が生じるほど繊細です。
その敏感なセンサーが微小な変化をとらえ、比喩的に言語化している場合があります。
「問題ないので様子を見る」ことは簡単ですが、細心の注意をもって診査することが大切です。

 

視診およびレントゲン診査の結果、連結クラウンのマージンラインの不適合が確認されたため、介入に移りました。

 

 


根管治療後、ファイバーポストとCRによる直接支台築造を行いました。
圧排糸が透けていて、歯肉着色しているように見えます。
歯肉が薄いケースではテンポラリーのサブジンジバルカウントゥアーの調整ミスやレストレーションの不備で容易にリセッションを起こしやすく、

細心の注意が必要です。

 


全周ディープシャンファーにて形成を行いました。
Aadvaジルコニアフレームにセラミックを築盛することで高い審美性を確保できます。
まさにロボットと人間のコラボレーションといったところでしょうか。
一時期の白抜けしたようなジルコニア特有の白さは皆無です。技術の向上を素晴らしく感じます。

 


セット直後の写真です。
術前の補綴物は直線的でマッチョな感じでしたが、本ケースの患者さんとはまったくイメージが違います。
そこで、やや丸みを帯びた形状で女性らしい優しい雰囲気で仕上げてもらいました。


感覚的な繊細さは人の手でしか再現することはできません。微妙な凹凸や歪みは人の手のなせる業です。
実際にミリングマシンで削り出しただけのクラウン、つまり完璧な形状のクラウンは著しい不適合を呈します。
生体は機械ではないことがはっきりわかります。


以前に某社内セミナーでお話ししたことがあるのですが、印象から補綴物完成までのすべての行程に一切ズレがない場合、

完成した補綴物は口腔内に装着できません。
形成の微妙な歪み、印象材の重合収縮、石膏の硬化膨張、鋳造収縮・・・それぞれがズレることでバランスが保たれています。

このような複雑系が存在する限り、人の手から離れることは決してありません。
AIとロボットの台頭によって、むしろ人間のセンスとバランス感覚がより際立つのではないでしょうか。
特に歯科医業では顕著ではないかと思っております。

 


4カ月経過観察時の写真です。問題なく機能しております。
多忙な方ですが口腔清掃を欠かすことなく、非常に良好な状態を維持できております。
プロフェッショナルケアに俄然力が入ります。