「むし歯治療=削って詰める」時代はすでに過去のものとなりつつあります。
当医院ではドリルを使用しないむし歯治療として
①ブラッシング指導(プラークコントロール)
②エクイア(ART法とGC社Equia forteを使用)
③インフィルトレーション(DMG社のICONを使用)
の3種類がありますが、そのうちのインフィルトレーションについて紹介します。

歯と歯の間の色が変わっているという主訴のもと、診査に移りました。
33の近心および32の遠心にICDASコード2~3のエナメル質カリエスが認められました。
ホームケアが適切になされており、う蝕活動性は低いと判断しました。
本人に説明したところ、より確実に進行を止める治療を希望されたため、インフィルトレーションを適応しました。

インフィルトレーションとは、脱灰が進んだ粗造な歯面にレジンを含浸させることにより、
滑沢面を得ると同時にう蝕病巣を封鎖することでプラークリテンションファクターを減少させる治療方法です。
簡単に言うと「むし歯を封鎖して進行できない状態にする」治療です。
シールドレストレーションの1つと言えます。
通常ICDASコード3までに適応することが無難ですが、研究者によっては象牙質にまで及ぶう蝕処置病変にも適応可能であるといった意見もあります。
インフィルトレーションは手技が複雑かつ難解であったのですが、近年ドイツDMG社よりICONというシステムとして製品化されました。
日本でもヨシダより発売されています。
術式が規格化していますが、手技に難しい面があり慎重に適応する必要があります。
特に気を付けるべき点は以下の3つです。
①塩酸と無水エタノールを使用する
②確実な防湿
③アプリケータを挿入するための歯間離開
塩酸と無水エタノールは口腔内において非常に危険な薬品です!
絶対にラバーダムを装着してください!
ロールワッテの簡易な防湿では重篤なトラブルを招く恐れがあります。
また、アプリケータの挿入が意外と難しくコツが必要です。
付属のプラスチック製ウェッジの剛性が足りないので、私はセパレータを使用して確実に歯間離開しています。

治療直後の写真です。インフィルトレーションはう蝕病巣を残すため、見た目に変化がありません。
患者さんへの事前の説明が必要です。

1年後の写真です。
う蝕の進行は認められません。
以前は「早期発見、早期治療」のもと、予防と称して削って詰めるのが当たり前でした。
近年ではう蝕学(カリオロジー)の研究が進み、削らず残せる時代となっております。
むし歯根絶の時代も近いのではないでしょうか。
しかし、現行の保険制度の下では「削れば削るほど」「抜いて入れ歯をいれるほど」点数が「優遇」されます。
ほとんどの歯科大学ではカリオロジーを教えません。
そして100年前のインレーボックス窩洞について何時間も講義・実習を行います。
削ることを必死で教えているわけです。
歯を大きく削ってコンピュータが作ったかぶせ物を入れたり
何本もインプラントを使って、劇的に口腔内を変化させたり
確かに派手でインパクトがあるため注目されるでしょう。
でも、そもそも削らないように予防できるのではないでしょうか。
歯が無くならないように未然に防げるのではないでしょうか。