審美歯科というとセラミックやホワイトニングというイメージが強いのですが、CRなどの直接修復も審美的アプローチが可能なポテンシャルを備えています。しかし、ただ充填すればいいのではありません。審美的かつ機能的に充填することが重要であり、形態不備は患者さんに医原的な症状を引き起こす恐れがあります。
接着修復は特別な道具や材料をそろえればだれでもできる治療ではありません。そういった意味で、歯科医師側の技術の研鑽がより必要であると日々実感しています。


「他医院で詰めてもらった歯にフロスが通らないうえに切れてしまう。金属をなんとかしたい」ことを主訴に来院されました。15、16、17、24にCR充填が認められますが、明らかな形態異常が認められます。フロスが通るなど、最低限の清掃性を考慮した形態付与は非常に大切です。プラーク・リテンション・ファクターの増加はカリエスリスクを増加させるだけでなく、歯周炎を惹起してしまう恐れもあり百害あって一利なしです。

不良充塡物を除去後、15は審美充填にて対応しました。隣接面形態の復元は技術的難易度が高いため、さまざまな形態のマトリックスをそろえておくと安心です。


16はe-max Inにて対応することとしました。

セット直後の写真です。セメントはジーセムリンクフォースを使用しました。セラミック修復の最大のデメリットはマージンラインがバットジョイントであり、セメントラインが露出してしまうことです。そのためセメント自体に強度があるレジンセメントでの接着(合着)が必須です。
リンクフォースは史上最強の耐摩耗性を持つレジンセメントであり、セメントラインの着色を最小限に抑えることができます。CRで合着するイメージです。操作性も良好で、一度使ったら手放せない材料の一つです。

2カ月経過後も全く問題なく機能しております。

続いて24の再修復です。写真は不良充塡物除去後の写真です。隣接面の充填において、ラバーダムクランプが邪魔になることがあります。その場合、写真のように多数歯露出を行うことで、一気に操作性が良くなります。マトリックスも設置しやすくなるのでおススメです。

充填直後の写真です。

26については根管処置を行い、ファイバーコアによる支台築造を行いました。この段階で、最終補綴物まで進めずにTEKを装着後、27のメタルインレーの置換処置に移りました。理由は操作性を確保しやすい点とコンタクト圧をコントロールしやすい点です。
27の修復を終えてから26の最終補綴物を装着することで、直接修復では困難なコンタクト圧の操作が容易になります。


インレー除去後、軟化象牙質を取り除いた後にCR充填にて修復しました。


26形成後、フュージョンⅡにて印象採得しました。親水性が高いため重宝しています。

ジーセムリンクフォースの使用手順について簡単に説明します。
支台築造部分にセラミックプライマーⅡを塗布後、十分に乾燥させます。

GプレミオボンドとDCAを1:1で混和し、支台歯に塗布します。強圧エアブローにてボンディング層を薄く均一に伸ばし、十分に光照射します。
Gプレミオボンド+DCAの利点として残留セメントが歯肉にくっつきにくいため、セメントアウトが容易に行えます。正直これには感動しました。Gプレミオボンド単体では粘性が強く、歯肉にボンディングが厚めに残留します。予備重合後にセメントアウトしようとしても歯肉と中途半端にくっついてしまい、残留セメントがなかなか取除去できず苦労します。DCAと混和することで化学重合を期待できるうえにセメント除去も容易になるため一石二鳥です。
支台歯側への光照射は先生によって見解が異なります。セメントとボンディングが一体化するメリットを強調されている先生もいますので今後の情報収集が必要だと思います。

セット直後の写真です。レジンセメント全般に言えることはセメントアウトが非常に難しいです。
決してアシスタント任せにしないでください。残留させると除去が非常に難しいです。




初診時の写真と26セット後2ヶ月の写真です。問題なく推移しております。
世界中でビジネスをされている方なのですが、合間を縫って律儀に通院していただき誠に感謝しております。
私たちは患者さんの主訴を愁訴ととらえてしまう側面がありますが、よくよく話を聞いて的確に診査をすると、ほとんどのケースで異常個所が見つかります。口腔内は感覚器であるといった意見を持つ先生もいるほど口腔内の感覚は先鋭であり、案外患者さんの感覚の方が適切だったりもします。
治療行為はともすれば一方的な押し付けになりまねません。患者さんの話をしっかり聞く、5分でいいから指導しないで話を聞くことが大切なのではないでしょうか。信頼関係はお互いが理解しあうことがスタートであり、一方的なコンサルで成立するものではないと考えています。