グラスアイオノマーの適応症

グラスアイオノマーセメントはなぜか昔の治療だというイメージがあります。しかし開発された歴史は実は比較的新しく、コンポジットレジンと大差ありません。
1969年にWilson,A.D、Kent,B.Eによって開発され、1975年にASPAセメントとして一般臨床で使われ始めました。日本のジーシーも早くからグラスアイオノマーに注目し、1977年にフジ1を合着用セメントとして製品化しています。ちょっと前までGC=グラスアイオノマーセメントの略だと勘違いしていたくらいです(笑)。*1
現在は充填用としてほとんど使用されないシリケートセメントやカルボキシレートセメントと勘違いしている先生が多いのかもしれません。
世界中で日本だけで肩身の狭いグラスアイオノマーセメントですが、症例によっては最も適している場合があります。

 


左下がしみることを主訴に来院されました。本人が言うには他医院で異常が認められなかったとのことでしたが、35遠心面歯肉側にう蝕を認めます。
「気のせいだ」「すぐになれる」と言うのは簡単ですが、よくよく診査してみると原因があることが多いです。患者さんの訴えることは、ほとんどの場合納得できます。「左下第二小臼歯遠心面歯肉側に実質欠損を認め、該当部位に黒変色および冷水痛が認められ、温熱刺激で異常を示さない」と訴える患者さんに出会ったことはありません。
私たち医療従事者の傾聴する姿勢が大切だと確信しています。

 


頬側遊離エナメルを一部除去しう窩を開拡しました。その後、軟化象牙質をエキスカベータで除去を行いました。
写真からは分かりにくいのですが、歯肉縁下方向にう蝕が拡大していました。
隣接面の歯冠側1/2から辺縁隆線を残すことができたため、インレーを避けることができます。MI修復の醍醐味と言えます。
トンネリング窩洞の軟化象牙質除去はかなりテクニカルです。取り残しが懸念される場合は、歯冠側方向から開拡したほうが器具の到達性が良く無難です。

 


充填直後の写真です。
歯肉縁下の充填において注意しなければならないことが防湿です。しかし本症例は実質的に完全防湿することが不可能です。ラバーダムで完全に隔離できない上に歯肉溝浸出液の存在がややこしくします。
そこでグラスアイオノマーセメントの出番です。
グラスアイオノマーは化学的に歯質と一体化するため、CRと違い接着操作が不要です。酸塩基反応で硬化するため湿度に寛容な面があり、多少ウェットな環境でも使用することができます
さらに本症例では積層充填が不可能です。ノズルチップ先端が窩底に十分に到達せず、器具の操作性に不安が残ります。

光照射においても十分な光量が到達できるのか定かではありません。未重合CRの存在は百害あって一利なしです。

よってバルクフィルにて対応する必要性があります。
機械的強度が必要な部位ではなく、審美面においても問題ないため、グラスアイオノマーセメントの最適応症であると考えられます。
ジーシーEQUIA Forteを用いて充填しました。

  


約7か月後の経過観察です。問題なく経過しております。
グラスアイオノマーは表面電位的に抗プラーク作用を示し、フッ素徐放性も発揮します。35と36の辺縁隆線に段差があるため清掃性に不安がありますが、抗菌性を持った充填処置を用いることで安心感につながります。
登山に例えると山頂までアプローチするのに、いくつものルートがあります。尾根、沢登り、縦走・・・山頂という目標は同じですが、それぞれに良いところがあります。
歯科材料はそれぞれに特性があります。患者さんはみな違います。一人ひとりに最適な材料を用いることが大切なのではないでしょうか。


*1 株式会社ジーシーは創業90年以上の国内トップシェアを誇る歯科医療メーカーです。GCはジェネラルケミカルの略だそうです。