大臼歯のCR充塡のポイント

大臼歯の審美充填を行う上で陥りやすいトラブルがあります。それは患者さんと歯科医師の視点の違いから生じます。大臼歯には大臼歯のポイントがあり、前歯部修復とは異なったテクニックが必要になります。
ちょっとしたポイントを押さえるだけで、トラブルを未然に防ぐことができるだけでなく、患者さんとの良好な関係を構築できると考えています。
 


36の近心に齲窩を認め、咬合面にアマルガム充塡処置が施されています。

 


アマルガムおよび軟化象牙質の除去後の写真です。咬頭の保存ができており、隣接面部の歯質も幅径の2/3以上保存できている為、MIの観点よりCRによる直接修復を選択しました。

 


コンタクトポイントが失われている場合、適切な接触圧の付与を行わないと「食片圧入」を招いてしまいます。そのためCRによる直接修復の場合は重合収縮を加味した充填操作が必要になります。
今回の症例ではセパレーターによる歯冠離開を行い、コンタクトエリアの充填操作を行っています。セパレーターによる歯冠離開が確実ですが、マトリックスを変形させやすいので注意してください。

 


充填・研磨後の写真です。先生方、特に審美充填を施術できる先生なら多くの点で異論があるはずです。
小窩裂溝ステインが無い、色相・彩度がずれているなど・・・要は大臼歯の解剖学的形態から逸脱した充填となっています。ここが大臼歯充填の最も重要な、患者さんとの認識の違いが生じやすい重要なポイントです。

①    ステインを入れない
小窩裂溝にステインを入れることでより解剖学的形態に近づきます。

しかし多くの患者さんを診療していて気付いたことが、患者さんは「白くてキレイな歯が欲しい」のです。

私たち歯科医師は口腔解剖学的観点から医学的に最適な形態を付与しようと奮闘します。

そのため、ステイニングによる小窩裂溝の再現を行うことで「解剖学的な歯」を提供しようとします。

しかし多くの患者さんは「ステイン=むし歯・汚い」と思ってしまいます。「本来の歯はこういう形態なのですよ」と説明したとしても希望した治療でない以上、残念ながら一方的な押し付けとなってしまいます。
例えば洋服を買う時、青のシャツが欲しかったのに「あなたの肌の色から判断して緑のシャツをご用意しました。色彩学的に最適な色調です。作ってしまったのでお支払いください。」と言われて納得できますか?事前にステイニングを希望するのか確認してください。

②    彩度を下げ色相を変える
口腔内は光が届きにくいため暗い環境です。暗い環境では青・白などの短波長の光は吸収されてしまい、オレンジ~赤などの長波長の光が残りやすいです。夕日が赤く見えるのは大気に短波長の光が吸収されるためです。

つまり口腔内の咽頭方向はオレンジ~赤の光が残るため、キレイと感じる白・青の光が減弱してしまう不利な環境と言えます。
そして患者さんは口の中を見るために洗面台で見ることが多いです。

洗面台の光源は黄暖色系である白熱灯が多いため、彩度は高く・色相は赤色にシフトして見えてしまいます。
つまり私たちが普段治療している無影灯環境下での色とはまったく違ってしまいます。だから色をバッチリ合わせるとクレームになってしまうことがあるのです。さらにステインを入れてしまうと、より黒く浮き上がるように見えてしまいます。
 以上から私の審美充填では少しでも白く見えるように赤色が強いA系統ではなくB系統を選択し、彩度を1段階下げています。つまり本来はA3のシェードでもあえてB2を選択します。見えたままのシェードで充填していません。

あくまでも患者さんの普段の生活環境課を意識してシェード選択をしています。

  


約3カ月経過後の写真です。問題は生じていません。患者さんにも喜んでいただいております。
都内から通院していただき大変恐縮です。
写真撮影ではリングストロボという強烈な光源を使っているため、光が表面で強く反射します。

そのため色が全くあっていないように映ってしまいます。

しかし自然光環境で見ると歯質内部からの透過光が反映され、さらにカメレオン効果もプラスされてシェードが合っているように見えます。

相手の立場になって考えることは、とても大切なことだと思います。

ところが知識があればあるほど、考え方が固執してしまい広く考えることができなくなってしまいます。

 

過ぎたるは猶お及ばざるがごとし(論語)

 

私たち歯科医師は歯科を知り過ぎており、そこに固執し過ぎているのかもしれません。