勇敢なる救助

学会や論文、勉強会などで決して発表されないが、経験のあるGPなら誰しもが施術したことがある治療が存在します。

それは臨床的には正解でも学術的に間違っている治療方法です。

臨床には不確実性が多く、全ての症例において教科書的に治療を進めることは困難であり、

「一定の条件下」が決まっている学術とは異なります。

つまりエビデンスベースではないが患者さんにとって正しい治療というものが存在するのです。

 


左上7にFMCが装着されており金属床義歯の支台歯になっております。

マージン全周で2次う蝕が進行しており、決して放置できない状態です。
何十年も前に施術を受けたが、現在も金属床義歯は良好に使用できており、該当歯にも自覚症状がありません。

この状態でFMCを除去すると保存不可能となる可能性が高く、

義歯の再製作だけでなく遊離端義歯となってしまい、義歯の安定性に不利に働きます。


状態の説明をしたところ、高価だった義歯なので再製作を希望しておりませんでした。
そこで少しでもう蝕の進行を遅くするために「Heroic Rescue」を適応することにしました。

 


Heroic RescueとはオーストラリアのIan Meyers先生が提唱している治療方法で、クラウンを除去せずに軟化象牙質を可及的に取り除きグラスアイオノマーセメントを流し込むことで、クラウンを延命する方法です。

・歯質と金属の両方に科学的に接着できる
・抗菌作用・抗う蝕作用
・生体親和性
これらグラスアイオノマーの利点をうまく取り入れた、これからの超高齢社会に有用な治療方法です。
写真はできる限り軟化象牙質を除去した後です。

 


フジⅨGPEXを用いてクラウン内面に流し込むように充填しました。
義歯にも干渉していません。
先生方はこの「Heroic Rescue」に新奇性を感じますか?開業医の先生や訪問診療をされている先生なら「常日頃」ではないでしょうか。


本症例の教科書的な治療方法は
クラウン除去→保存可能なら歯冠補綴まで進めるか、根面板などのアタッチメントを選択
→保存不可能なら抜歯
→義歯の再製作 となります。
しかしこの流れがすべての患者さんの利益につながるとはいえません。

患者さんにはそれぞれ事情があります。通院が困難、全身疾患、経済面・・・学術のように理想的ではありません。

すべての臨床は妥協といっても過言ではなく、完全無欠の患者さんは存在しません。
こういった臨床的な症例を話すうえで日本ではお酒が必要です。
本音と建て前を使い分ける必要性があります。
しかし海外では「本音」が公然と語られ、新しい治療方法として注目されているのです。
不寛容性が日本の歯科医療の閉塞感の一助になってるのではないでしょうか。

 


約1年が経過しましたが、支台歯・義歯ともに良好に経過しております。
「Heroic Rescue」とは堂々たるネーミングですが、初めて症例発表したときにはきっと「勇敢さ」が必要だったのかもしれません。

ちなみに外国ではサホライドによるう蝕予防が注目されているそうです。
いまさらサホライドです。

日本がユニークなのは、日本国と日本文明が合致しているからである。そのことによって日本は孤立しており、世界のいかなる他国とも文化的に密接なつながりをもたない。
サミュエル・P・ハンチントン著「文明の衝突」より

私たちの普通はところ変われば驚愕となるのかもしれません。

   

* 注意事項 *

こちらのページは東松山グリーン歯科の渡部誠弘が個人運営する勉強会での向上と研鑽を目的とした歯科医師向けコンテンツです。
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
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