根管治療と前歯部補綴

最近になってようやくCAD/CAM冠の早期脱離が収束している感があります。

接着操作が浸透してきたことが要因ですが、それにはメーカーや材料ディーラーの営業さんの努力が大きいと感じています。
そしてセメントの改善が急速に進んだことも寄与していると思います。

特にボンディングエージェントを含んだプライマー類によって被着面とセメントの剥離が激減したのでは、と考えています。
そこで今回は改めて接着ステップについて症例を交えて脱線気味に解説させていただきます。

 


前歯の歯茎が腫れたことを主訴に来院されました。

デンタルより21根尖相当部に透過像が確認され、根尖性歯周炎の診断のもと21の根管治療を適応しました。

 


根管充塡直後のデンタル写真です。私の根管治療は一般的な2回法です。
1回目で根管形成を行い、水酸化カルシウムを貼薬します。2週間ほど期間をあけて水酸化カルシウムによる減菌作用を期待したのちに根管充填します。
根管治療はステップが多く繊細で煩雑なうえ、努力に見合った報酬ではありません。
当医院の根管治療はラバーダム防湿とニッケルチタンファイルを使用しています。

つまり大赤字ですが、1本でも多くの歯を助ける努力は歯科医師として当然の責務ではないでしょうか。
根管治療後ファイバーポストによる支台築造を行いました。通法に従いオーソドックスに進めていきます。

  


支台歯形成後、シリコンによる印象採得を行いました。シリコン印象の場合、2回法で印象採得をしています。
最初にシリコンパテで概形印象を行い、続いてヘヴィボディをトレー側に盛り付け、支台歯にはウォッシュタイプを流すダブルミックスで印象採得を行います。ダブルインプレッション+ダブルミックスということです。

最初にシリコンパテで概形印象を行うことでヘヴィボディの厚みが均一に近くなり、加えて印象圧が均等に分散することで精度の高い印象採得が行えます。さらにヘヴィボディの使用量が減るため経済的です。
ちなみにロングスパンや複数歯の印象には個人トレーを用いた印象採得を行っています。

  


セット直後の写真です。ジルコニアフレームにセラミックスを築盛したクラウンによる補綴です。
近年のジルコニアは透明性が高くなり、審美的にかなり改善されています。
無調整でセットできました。いつも精度の高い補綴物を仕上げてくれる技工士さんに感謝です。

  


その後良好に経過していましたが、約1年後に11の自発痛・打診痛が認められました。

精査の結果、11の失活が認められ、急化perの診断のもと根管治療を施術しました。
21の根尖部透過像は消失しています。

 

    


ファイバーポストを用いた支台築造後、通法に従い形成・印象をおこないました。
マージンラインは歯肉縁で設定しております。
21も歯肉縁のマージンライン設定ですが、1年経過でも良好な審美性を保っています。

    


ジーセムリンクフォースによる合着を行いました。
まず支台歯を清掃しセラミックプライマーを塗布します。
続いてGプレミオボンドとDCAを1:1で混和し支台歯に塗布し強圧にて十分にエアブローします。
その後光照射でボンディングを硬化させます。
クラウン内面にも同様にプライマー処理→ボンディングの塗布を行いますが、光照射しません。
支台歯およびクラウン内面の光照射の有無は先生によって見解が異なり、今後の研究結果次第で変わってくる可能性が高いです。

     


セメント注入後、直ちに支台歯に圧接します。その後1秒ほど予備重合を行い、余剰セメントを除去します。
ジーセムリンクフォースはボンディングを塗布していても一塊でキレイに取れてくれます。
セメント注入→圧接→バリアウトまでは迅速に進めてください。

ジーセムシリーズは安定した化学重合性がありクラウン内面などの光が届きにくい部分も十分に硬化してくれるのですが、

一連のセメンティング操作をのろのろ進めてしまうと硬化が進んでしまうので注意してください。
バリアウト後に十分に光照射して完全硬化させます。

   


セット直後の写真です。同時に補綴していない場合、色調がずれてしまう危険性があります。
適切なシェードテイクと技工士さんとの緻密なやり取りで、問題ない精度で補綴することができました。