自家歯牙移植

インプラントの簡便性と経済性によって消極的になってしまった自家歯牙移植ですが、私は欠損補綴のなかでも非常に有用な手段の一つであると考えています。

特に歯根膜はインプラントでは再現することができず、感覚受容器という点だけでなく、口腔内の変化に対応できる非常に優れた組織であると考えています。天然歯に勝る補綴はないのではないでしょうか。

歯牙移植は難しいと思われがちですが、基本ステップさえ守れば高い成功率を達成することができます。

 


20代前半の患者さんです。46の保存を希望されて来院されましたが、軟化象牙質除去後に残存歯質が非常に薄いだけでなく、根分岐部から頬側壁にかけて大きくパーフォレーションしていました。縁上歯質がほとんど残存しておらず、予後不良と判断し抜歯と判断しました。無理してでも保存する私ですが、さすがに不可能なケースもあります。

 

  


幸いにも健全な48が残存しており、自家歯牙移植について患者さんに説明したところ希望されたため施術することになりました。

抜歯後に抜歯窩の掻爬をおこない、移植歯牙が入るように骨整形を行いました。

ダイヤモンド鉗子にて48を徐々に脱臼させました。ヘーベルを使用すると歯根膜を傷つける恐れがあるため、必ず鉗子のみで脱臼させた方が成功率が高くなります。

移植歯牙に咬合圧がかからないように咬合調整し、置いてくるように46部に移植しました。移植歯牙として理想的な形態は単純な単根歯ですが、今回のケースでは2根の歯牙を移植しました。

 

 

    


移植後2週間で根管治療を行いました。通法通りの根管治療ですが、ラバーダムクランプを装着すると抜けてしまう恐れがあるため、47に装着しました。

また、固定は3週間で除去しています。移植歯を事前に根治すると、抜歯するときに破折する可能性があるため、移植後に根治したほうが確実です。また、アンキローシスの防止のために1ヶ月を超える固定は極力避けた方が無難です。

この状態でTEKを装着し、経過観察しました。

 

   


移植後10カ月で補綴しました。デンタルにおいて骨の添加が認められます。

頬側中央部のポケットは2mmであるため、心配していた分岐部の生着もクリアできそうです。

仮に分岐部病変として進行した場合は、歯冠歯根分割後に再補綴をおこないます。

 

今回の症例のように臨在歯に補綴物が無く、加えて若年者の場合には自家歯牙移植は非常に有用です。

欠損補綴はインプラントやブリッジ、義歯など人工物だけで補う必要はありません。

自家歯牙移植だけでなく矯正や保隙装置など、多くのオプションを施術できることは患者さんにとって多大なメリットとなるでしょう。

 

    


追記

移植後約1年が経過しました。順調です。

心配していた分岐部の生着は問題なく骨形成しております。