正中離開の矯正は一見簡単に思えますが、実は難しい一面があります。
それは後戻りによる矯正の失敗です。
歯牙移動量が少なく、傾斜移動で対応できるため、早期に移動完了できます。場合によっては数日で移動します。
しかし、正中離開は移動した後の対応が肝心です。然るべき保定を行わないと急速にリラップスします。
そのため多くの先生は自然保定を断念し、口蓋側をワイヤーなどで永久固定します。中には連結固定されてしまっているケースもあります。そのような永久固定は果たして合理的と言えるのか、私としては疑問が残ります。

ティーンエイジャーの女性です。歯のすき間が気になることを主訴に来院されました。
上唇小帯がやや高位付着しており、正中離開の原因のひとつと推測しました。
本ケースを矯正的に対応しようとすると非常に危険です。
傾斜移動によって閉鎖すると、上唇小帯の高位付着が改善されておらず、再発の危険性が高いです。
それを避けるためには上唇小帯移動術を併用しなければならず、健全な歯周組織に弊害を与えます。最悪、フラップ手術の合併症による歯肉退縮を招き、審美的にも機能的にも疑問の残る結果となりかねません。
永久保定は清掃性と舌感、発音の観点より第一選択とはなりえないと考えています。
また、中切歯のみの移動では遠心に離開が生じる可能性が高く、2番~3番・・と結果として全顎的アプローチになってしまう可能性があります。
当初はMTMのみで、十数万円の費用で治ると説明
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正中離開の再発
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上唇小帯移動術で十数万円の追加費用
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遠心に離開が生じ、全顎矯正に変更。100万円前後の追加費用
もしこのような結末になったら、はたして患者さんは納得してくれるのでしょうか。
正中離開の矯正は泥沼化する可能性を秘めており、術前の精密な診断が必要です。

歯冠形態の部分的な補正で対応可能と判断し、正中のダイレクトボンディングによって即日で対応しました。
もちろん切削は一切行っていません。
使用したシェードはAO2・B2・BW・WEです。
フッ素症と思われる軽度の白斑が認められたため、ややハイライトよりのレシピを選択しております。
象牙質のシェードはA2ですが、歯冠中央部に帯状に明度の高い層が存在しているため、あえてB2をボディとして選択しました。
カローレWEを選択しておりますが、今ならより不透明感が強く、華やかな印象のエッセンシアLEを選択すると思います。
近年の10代から20代前半の方の前歯部には本当に苦労させられます。複数のシェードが混ざっており、加えてやや歯牙フッ素症気味の方が多いのでシェード選択に悩みます。

1か月後の経過観察です。全く問題ありません。
ブラックトライアングルは適切な歯冠形態を付与することで、歯冠乳頭が埋めてくれます。ダイレクトボンディング時に埋めてしまうと、清掃性の点で不利に働き、かえって歯肉退縮を招く原因となります。
そもそも審美的に違和感が強く出るため、私は埋めずに歯冠乳頭の上昇を待ちます。

1年9カ月時点で来院された時の写真です。特記事項なく、順調に経過しております。この間に再研磨を一切しなかったのですが、光沢をしっかり維持しています。さすが国産です!
「歯並び=矯正」と短絡的に考えがちですが、すべての患者さんに矯正が最適とは限りません。複数の治療選択肢を持つことで、より柔軟に対応できます。