床矯正によって抜歯矯正を回避できたケース

床矯正は健康な歯を抜歯する成人矯正を回避できる可能性を与えてくれる矯正です。

ブラケットボンディングも不要であるため、不必要にカリエスリスクを上昇させる心配がなく、可撤式であるため清掃性にも優れます。

ワイヤー矯正に伴う高額治療費を節約できる可能性があり、患者さんのメリットは非常に高いと考えております。

ただし、その手軽さ故にトラブルにもつながりやすい側面があります

今回は床矯正のポイントについてトラブル回避に着眼して執筆させていただきます。今回のブログは長いですよ!

  


10歳の女性です。歯並びのガタツキが悪化したことを主訴に来院されました。
勉強されている先生はお気づきだと思いますが、本症例は床矯正を適応する場合に細心の注意が必要な症例です。
まず、床矯正の適応は犬歯未萌出の6~9歳くらいまでです。

実際にこちらの患者さんは他院での矯正治療を断られたため当医院に来院されています。

下顎両側犬歯がすでに歯冠1/3ほど萌出しており、永久歯の抜歯+ワイヤー矯正が第一選択です。

 

ただし、本症例は
① 犬歯が完全に萌出していない
② アングル1級の前歯部叢生を伴った不正咬合
③ アーチレングスディスクレパンシーが約5mm
④ 健全な歯の抜歯に納得していない
⑤ 本人およびご家族の強い決意がある

以上よりリスクを同意の上で床矯正を開始しました。

    


開始3ヶ月後の写真です。側方拡大床を週90度・活性2日で進めました。
永久歯の萌出はいきなりニョキっと出るのではなく、3~6か月かけて徐々に萌出します。つまり犬歯の萌出までに必要量の拡大を終えてしまえば、前歯部叢生を解消できる可能性があります。
なぜ犬歯の萌出が重要なのかというと、犬歯は歯根が長く遠心に移動しづらいため、叢生の解消を困難にするためです。ちなみに完全に萌出しても、歯根完成は萌出後しばらくかかるので猶予はあります。

つまり本症例は本人が床矯正を完全にやりきらなければ失敗する可能性が極めて高いです。

 

床矯正装置は取り外しができるために、本人が適切に装着しないと矯正力を発揮できません

よくあるトラブル1つがご家族の一方的な矯正の希望で、本人のやる気がない場合が要注意です。

患者さん自身の決断が無い場合は床矯正を適応しないほうが無難です。

 

     


6か月経過の写真です。患者さんの治療への前向きな協力のおかげで予定通りに拡大が進みました。

 

 

   


ただし、下顎床矯正装置の右側のアダムスクラスプが破損してしまい、あと1mmちょっとのところで拡大床を再製せざるを得なかったです。上顎はサンドタイプの保定装置を装着しました。

 

   


11か月経過の写真です。拡大の開始年齢が遅かったため、右上犬歯が唇側より萌出しました。

そのため犬歯を顎内へ誘導する措置をとりました。
下顎は6か月経過時点より約2mm拡大した後に、拡大床をそのまま保定装置として使用しました。

 

  


よくあるトラブルの2つめが唇側線の調整不良です。

唇側線の調整を怠たると前歯が直線状に排列されてしまうトラブルが起こりえます

写真は他院で床矯正を施術していた患者さんですが、唇側線が前歯部を舌側に押し込んでしまった結果、前歯部が直線状に排列されてしまっています。

こうなってしまうと、ワイヤー矯正でアーチを修正しなければなりません。
また患者さんが唇側線で着脱していると、思わぬトラブルが発生する危険があるので、随時着脱方法を観察する必要があります。

 

   


18か月経過の写真です。保定装置を撤去し、自然保定へと移行しました。
右上犬歯はやや唇側ですが顎内に排列できました。上顎両側犬歯が若干唇側に位置しておりますが、本人とご家族が満足している点と、これ以上の矯正治療を望まれていなかったため、この時点で終了となりました。
床矯正装置は装着期間が長すぎると下顎を前下方向に誘導する傾向があり、下顎の成長時期までには終了させたほうが無難です。ちなみに本症例は3-3のIPRとセクショナルワイヤーでより審美的に仕上げることもできます。

 

私は自然保定が望ましいと考えております。歯は周囲筋肉と機能の最も調和のとれた位置に排列しようとします。
よって適切なMFTを組み込むことで、永久保定を避けることが可能です。

 

舌側の金属ワイヤーによる永久保定は審美的に良好とはいえず、清掃性に著しく不利であり、舌感や発音にも影響が及びます。脱離した場合、後戻りの危険性も抱えることになります。

 

   


31か月経過の写真です。永久歯列期となりました。自然保定ですが、大きな後戻りなく良好に経過しております。

本症例は患者さん本人のおかげで成功したと断言できます。

問題を受け止め、矯正という大きな決断をして、約2年間も律義に毎日継続して、最後までしっかりやりきる!

「決断・実行・継続」はとても大変なことです。
体は小さな子供でも、とても立派です。

 

大人はというと・・・問題を直視せず、決断を先送りし、「でも」で反論、「どうせ」で正当化し、可能性のなかで生きている人が多いのも事実です。

 

大きな困難を乗り越えたことは称賛に値します。微力ながら協力できたことを光栄に思います。

* 注意事項 *

こちらのページは東松山グリーン歯科の渡部誠弘が個人運営する勉強会での向上と研鑽を目的とした歯科医師向けコンテンツです。
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
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