ダイレクトボンディングの多数歯への応用

CR充填をはじめとする直接修復の利点といえるのが、短期間で多数歯を施術できることです。
修復処置のみで問題解決できる場合は、全顎を一日で処置することも可能です。
遠方から来院される方や時間の制限がある方には、修復的アプローチの相性が良いと考えています。

  


「他院で矯正をしたいので、むし歯治療を短期間で終わらせてほしい」ことを主訴に来院しました。全顎的に著しい歯石沈着を認め、多数歯に象牙質に到達するう蝕を認めました。

口の中を変えたいと強く考えており、矯正を含めた全顎処置を希望されていました。

  


まずは全顎の歯周治療とTBIを行いました。歯周状態が悪いと修復処置のミスに直結します。歯肉炎があると術中の出血によって接着操作に支障をきたす場合があります。
急性症状を認めない場合は補綴と同じく、補綴前処置を行ったうえで修復処置を進めることで良好な予後につながると考えています。

  


丁寧なブラッシングを心がけていただけたため、歯周状態がわずか3週間程度で劇的に改善しました。
そこで2日に分けて全顎の修復処置を開始しました。
今回の患者さんは矯正治療を考えています。矯正によって咬合が変化するため最終補綴物を行うことはできません。そもそも矯正治療は補綴前処置のひとつです。そのため咬合に影響しない修復処置を第一選択とするべきです。セラミックインレーなどの間接修復も咬合の変化によって再制作になる可能性があるため、できる限り直接修復を選択するほうが患者さんの負担が少ないと考えています。

 

    


44・45・47の軟化象牙質除去後の写真です。

小臼歯部は辺縁隆線を保存できる「ホリゾンタル・スロット・テクニック」にてアプローチしました。

2級窩洞のラバーダムは複数歯を露出させたほうがスムーズに処置できます。

   


充填後の写真です。もともと隣接面に間隙があるため、そのままの形態で充填しています。

コンポジットでコンタクトを再現することは容易ですが、矯正治療を控えているため、現状から大きく逸脱せずに修復しております。

   


17および16の修復物および軟化象牙質除去後の写真です。16・17隣接面にはICDASコード2-3程度のエナメル質カリエスを認めましたが、象牙質に到達しておらず、経過観察としました。
上顎臼歯部は耳下腺開口部が近接しており、加えて咽頭に近く呼気による湿度の影響を強く受けます。

そのため簡易防湿では接着に支障をきたす恐れが強く、ラバーダム防湿は必須です。

   


14・13・12の軟化象牙質除去後の写真です。

15隣接面もエナメル質に限局したカリエスであるため、経過観察としました。
ラバーダムで複数歯を露出させる場合にはクランプ以外にもウェジェットなどを使用すると簡便です。

  


術後の写真です。3時間弱かかりましたが、一度に6歯の充填処置を進めることができました。

患者さんが長時間の診療に協力していただけたおかげで、滞りなく処置を進めることができました。

   


約2か月後の経過観察で問題は発生しておりません。

ブラッシングも続けているとのことで、歯肉の状態も良好に保っております。

今後は都内で矯正治療を始められるとのことです。

 

 

正直に言うと一人の患者さんに3時間以上の連続処置は目・肩・腰に堪えます。
特にCR充填はひとつでもゼロがあると、他がどんなに良くてもうまくいきません。
CR充填は「掛け算」的な治療であり、抜きどころがありません。

 

ですが、それを楽しんでいる自分もいます。
もちろん患者さんの多大なるご協力があってのことであり、心より感謝しております。
完全に集中できることで、ある種のゾーンに入る感覚があります。

何十人もの患者さんを「回す」診療スタイルよりストレスが少なく感じています。

 

何台ものユニットを、複数のドクターで、大勢の患者さんを診察する。
それだけが成功ではないと思います。


増やすこと自体は簡単です。投資を増やせばいいだけです。
投資はお金だけではありません。家族との時間や心身の健康なども貴重なリソースです。
そういった貴重なリソースをお金に換えているだけの先生も散見します。

 

今という一瞬は、後で買うことはできないし、貯蓄することもできません。
健康は失って初めて有難みを感じるものです。


増やすことにばかりに焦点が向きがちですが、自分に合った診療スタイルを考えることは非常に大切です。
1日に100人の患者さんに感謝されることのほうが、ひとりの患者さんに感謝されることよりも偉いとは限りません。

* 注意事項 *

こちらのページは東松山グリーン歯科の渡部誠弘が個人運営する勉強会での向上と研鑽を目的とした歯科医師向けコンテンツです。
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。