前歯部ダイレクトボンディングの意外な色調選択

まず結論から言います。私は歯の色調に合わせて充填していません。
最近のダイレクトボンディングはデンチン・エナメルなど歯牙構造に合わせてレイヤリングする方法が主流です。これはコンポジットの性能が向上し、色調だけでなく、CR内部の光の屈折までコントロールできるようになったためです。

ですが私の経験上、解剖学的なレイヤリングで成功することは稀です。

多くの先生が患歯の色調および解剖学的形態をいかに再現するかで苦心しています。セミナーで解剖学的形態の再現に重きを置く傾向があるためでしょう。

残念ながら解剖学的形態を再現しようとすればするほど患者さんは離れていきます。

  


「歯を変な色に詰められたし、すぐに欠けてしまった」ことを主訴に来院されました。21遠心歯頸側のCRが脱落していますが、一見すると充填に大きな問題点は認められません。一般的なCR充填が施されています。
 

  


充填されていたCRを除去しました。歯肉縁下にまで及んでおり、充填操作の都合上ラバーダム装着せず、処置を行いました。軟化象牙質の取り残しは認められませんでした。

  


充填直後の写真です。お気づきだと思うのですが、患歯の色調とはまったく違います。
シェードはバックウォールにAO2、ボディにBW、そしてLE(ライトエナメル)という破天荒なチョイスです!


なぜこのシェードなのかというと、患者さんが求めていたからです。
左右中切歯よりも側切歯が唇側に位置しており、そのせいで中切歯が暗く目立たない印象でした。
つまり患者さんは言葉では「詰め物の色が気に入らない」と言っていましたが、本当の主訴は「見た目をキレイにしたい」のです。

 

そこでBW+LEという派手な選択をすることで、ビシッと映える印象を与えることができました。
そして唇側面切縁側半分くらいを平面的に充填することで、歯の横幅が大きくなったような錯覚を与えています。

 

明るい色調は暗い色調よりも、前に出ている印象を与えることができます。逆もしかりです。
平面的に充填するか、曲線を与えるかでも歯の大きさのイメージをコントロールできてしまいます。

人間の目は機械のように精密ではなく、どうしても錯視・錯覚を起こします。
これを逆手にとることで、まるで矯正したかのようにイメージを変えることができるのです!

 

ダイレクトボンディングは単に欠損を補填したり、天然歯を再現するだけではないのです。
それだけで終わるのは、あまりにももったいない。
ダイレクトボンディングでイメージコントロールができるようになると、一気に適応症のすそ野が広がりますよ!

  



始めは1本だけの治療を希望されていましたが、右側中切歯の処置も希望されたため、同じシェードで仕上げました。写真ではわかりにくいのですが、見た目の印象がガラッと変わりました。

 

私が歯の色調に合わせて充填しないのは、患者さんの求めていることに焦点を当てているためです。

 

キレイになりたい。
アンチエイジングしたい。
いい笑顔になりたい。

 

願望は人それぞれであり、それを知るためには患者さんから聞くしかありません。
私たちは「コンサル」という名のもと、一方的に説明してしまい、ともすると営業のように説得している現実があります。
ダイレクトボンディングも同じで「さあ本物の歯のように仕上げました。隣の歯と同じようにクラックやステインを再現しました。咬耗も再現しています。どうだ、すごいだろ。」
では納得しない患者さんが多い現実があります。

  


約3か月後の経過観察において、問題は認められませんでした。

 

本症例のような色調選択には法則がありません。
ある程度の理論を踏まえたうえでの「感覚」で施術しています。

 

世の中はどんどんデジタル化しています。色調測定においても人間より正確な測定器がありますが、

いくら色を数値化しても感覚は反映されていません。

 

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現代医療はシステムなのである。医者はシステムの一部で、患者の都合や考えは関係がない。
(中略)ただ測定器具を持ってくる。人間より機械のほうが信用できるらしい。それなら患者の私が何を言おうが、発言に信用がないのは当然であろう。聞く耳も持たない。

 

養老 孟司 著「半分生きて、半分死んでいる」(PHP新書)より

 

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計測して客観的なデータを提示したとしても、あくまでデータなのであって患者さん本人ではありません。話を聞かずレントゲンや検査などでデータ化し、画面上でいくら説明しても、そこに患者さんはいません。

審美充填において最も大切なことは「患者さんを理解すること」だと考えています。


理解することとはデータ化することではなく、どう思うのか、どう感じているのか、
患者さんを生身の人間として理解しなくてはなりません。
患者さんの主訴はレントゲンの陰影像ではないし、検査結果の数値ではないのです。

 

  

* 注意事項 *

こちらのページは東松山グリーン歯科の渡部誠弘が個人運営する勉強会での向上と研鑽を目的とした歯科医師向けコンテンツです。
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。