ダイレクトボンディングの意外な色調選択2

前回の続き、というより前回とは逆の色調選択をした症例です。前回の内容を要約すると
① ダイレクトボンディングは解剖学的形態の再現だけではない
② ダイレクトボンディングで歯のイメージをコントロールすることが可能
③ 明るい色調は前に出ているように感じる
④ 平面的な形に仕上げると歯が大きくなった感じを与える
⑤ どんなイメージを希望しているのかを聞く 一方的に説明しない
といった内容でした。


CR充填やダイレクトボンディングは芸術的要素が含まれています。ピカソと同じ画材を使えば、同じクオリティの絵が描けるわけではないのと同じです。超高価な自費CRをそろえても、クオリティは上がりません。むしろ性能を生かしきれない故にデメリットが露呈します。数回セミナーに参加すれば、それなりに治療できるようになると思っていると、痛い目を見る繊細な領域なのです。

  


前歯が欠けていて、見た目が気になることを主訴に来院されました。写真では簡単な症例に見えますが、オーバージェット・オーバーバイトともに大きく、骨格性の上顎前突を呈しております。

  


ラバーダム装着後、不良充填物の除去および軟化象牙質を除去しました。

 

    


充填後の写真です。一見すると近心部分が正中に向かって傾斜しており、解剖学的形態から逸脱しています。
さらに充填部分の色調をワントーン落としました。

 

本症例に上顎中切歯の解剖学的形態をそのまま付与すると、中切歯の存在感が強くなりすぎてしまい、第一印象が出っ歯になってしまいます。そこでできる限り中切歯の存在感を減らしたい、と考えました。

 

切縁を水平にしてしまうと歯冠長が長くなってしまい、存在感が増してしまいます。
短い歯冠長でも違和感が出ないギリギリのラインでアウトラインを仕上げました。


そして近心部分をできるかぎり口蓋側に寄せて、丸みを帯びたフォルムを与えました。
短い歯冠長と丸みを帯びたフォルムによって、見た目が小さくなったような錯覚を起こすことができます。

 

最も重要なポイントがシンメトリーにすることです。1歯単位で理想的な形態から離れていても、トータルでバランスがとれていれば違和感が出にくいのです。
解剖学的形態を逸脱する場合は、シンメトリーに仕上げるように心がけています。

 

シェードはAO2・A2にダークエナメル(DE)をやや厚めに使用しています。つまり患歯のシェードより若干落としています。
暗い方向のシェード選択は、歯が後退したような印象を与えることができます。

 

ただし、暗い方向のシェード選択は非常にセンシティブです。
歯が明るくなる方向には、それほど違和感を訴える方がいませんが、わずかでも暗いと敏感に気づかれます。
おそらく歯は白いというイメージが強いせいかもしれません。

   


約1年後の経過観察です。大きな問題なく患者さんにも喜んでいただけております。

 

本症例において上顎前突という異常に対し、何ら対策をしていないことを疑問に思う先生は多いのではないでしょうか。

私は正常といわれる状態でなくても、治療しないことが多いです。

 

私は患者さんを健康に近づけることが歯科医療の使命であると考えています。
これは患者さんを完全に正常にすることとは違います。


日本WHO協会では「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義しています。

すべての病気を治療して、完全に正常な状態が健康ではないのです。異常があっても満たされていれば健康なのです。

 

しかし多くの症例発表や学会発表において、本症例のように異常に対して治療していないと、必ずバッシングを受けます。

異常をすべて正常にすることが正義なのです。

 

上顎第一小臼歯を抜歯して矯正的に前歯部を後退させる、ないしは外科的矯正で前歯部を移動させることで上顎前突を治癒させ、ガミースマイルに対して歯肉整形を行い、セラミックで補綴することで理想的なスマイルラインを得られる。

 

これで患者さんは健康になるのでしょうか。 

 

歯の形は○○でなければならない
歯並びは○○でなければならない

 昔は「個性」だったはずなのに、いろいろな状態に病名が付いています。


個性を病気扱いすることは、本当に良いことなのでしょうか。

 

やたら病名を付けて、全てを治療する脅迫的な医療行為は、ともすると健康から遠ざけてしまいます。
正常・異常の二者択一ではなく、個性という「ゆとり」を認めることが健康につながることを、私たちは忘れかけている気がしてなりません。

 

 

 

* 注意事項 *

こちらのページは東松山グリーン歯科の渡部誠弘が個人運営する勉強会での向上と研鑽を目的とした歯科医師向けコンテンツです。
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。