ダイレクトボンディングによる前歯部修復ケース

当医院に通院中の方のうち、半分以上が東松山市外から来ています。これはダイレクトボンディングの特殊性によるところが大きく、患者さんの多様化する悩みに柔軟に対応できるためです。

ダイレクトボンディングはインプラントやセラミック補綴と比較して華やかさに欠ける地味な治療です。

研修医でもできる入門治療などと揶揄されることも…。

しかしダイレクトボンディングほど技術差が如実に表れる処置はないのでは、と考えるくらいはっきりわかります。患者さんでも違いがはっきりわかります。

その違いを分かってくれる方が、遠方なのにも関わらず来院していただけていると考えています。

 


神奈川県からお越しの方です。何時間もかけてご来院いただき身の引き締まる思いです。見た目とフロスが切れることを訴えられていたため、ダイレクトボンディングによる修復を提案しました。

 

充填されているCRは様々な種類のCRが充填されていました。CR間は接着しておらず、フロスによる清掃を阻害していたことが予想されます。患者さんによると同部位は何度も処置を受けているとのことです。おそらく古いCRに対してシランカップリング処理を施さないまま、充填処置を行ったためであると思います。

ちなみにCRの種類は可視光下で判別できませんが、製品によって蛍光性に特徴があるため、ある程度推測できます。

 


不良充填物の除去および軟化象牙質の除去後の写真です。処置後1年弱しか経過していないとのことでしたが、広範囲にわたって二次カリエスを呈する状態でした。特に21は不適切な覆髄処置がされており、加えて覆髄材とCRとが接着しておらず、覆髄材が窩洞外にまで塗布されている状況でした。漏出した覆髄材を起点として短期間で広範囲に二次カリエスを惹起したことが予想されます。なんのための充填処置だったのか…同じ歯科医師として憤りを感じます。

 


充填直後の写真です。もともと凹凸がはっきりしている歯牙形態であったため、やや明るい傾向の色調を選択して立体感を出しました。特に11近心は21近心に比較して口蓋側に位置していたため、より唇側に出ているように錯視するようなハイライト気味の色調選択をしております。

象牙質の色調がやや暗い傾向を示しており、写真上では明度に差があるように見えますが、実際は象牙質からの透過光と散乱光で落ち着いて見えます。

 

人間の目は青色の変化を察知する能力が赤色に比べて低い―と言われています。

「デジタルカメラ撮影講座 ふんいき辞典」谷口 泉 著 より加筆・引用

 

いわゆる明るい・白い色調へのシフトは青色方向への変化なので、人間の視覚的に分解能が低いです。ホワイトニング後の仕上がりに不満を抱くトラブルは、青色の変化を察知しにくいことに起因していることが多いです。よってかなりハイライトよりに設定しても違和感が出にくいのです。むしろ好まれることが多いです。

 

 

CR充填は簡便さゆえに手順を省いたり、あいまいな知識のまま施術している歯科医師が少なからず存在します。今回のケースでは典型的な接着操作のミスをしていました。

 

① 完全に硬化したCRには積層充填できない

CR同士はなにもしなくても接着すると盲目的に考えがちですが、完全に硬化したCRには未重合層がないため接着しません。そのためCRのフィラーに対してセラミックプライマーなどでシランカップリング処置を施すことで接着させなければなりません。ボンディング材は歯質との接着を前提としている製品が多いので注意が必要です。

 

② 硬化しない覆髄材の上にCR充填できない

本ケースで使用された覆髄材は、おそらくカルシペックスなどの水酸化カルシウム系の貼薬剤です。カルシペックスは硬化しないため、ボンディング処置などの表面処理を行うことができません。水分の含有量も多く接着疎外因子として働きます。覆髄処置において非硬化材料を使用する場合は、接着処理が不要なグラスアイオノマーなどの化学重合系セメントを使用することが適切であると考えます。

 


約1か月後の状態です。懸念していた術後不快症状が無く、フロスの引っ掛かりも無くなり清掃性が向上しました。

 

先日、プレジデント誌に「歯医者の裏側」という衝撃的なタイトルで発刊されていました。

それだけ世間の関心が大きいのでしょう。

 

歯科医院の数が多くなりすぎて競争が激化しているらしいです。

患者の奪い合いなどと身の毛のよだつことが普通に言われています。

しかし、私には実感がありません。

 

歯科医師は患者さんからは皆同じに見えますが、実は治療内容が大幅に異なり、専門分野が違います。

親知らずの抜歯が得意な先生

矯正が得意な先生

根の治療が得意な先生

など、先生によって得意不得意があります。

そこで、先生それぞれが自身の得意分野を最大限生かした診療を行えば、競争しなくて済むはずです。

できないことを無理してやるのではなく、できることに集中したほうが、結果として患者さんのためになると思います。

インプラント治療や難しい根管処置など、私が得意ではない治療は得意な先生に助けてもらっています。

ぜひ、競争ではなく「共存」する方法を考えてください。

私は私の助けることができる患者さんを、精一杯診察することに集中していきます。