今回のケースは博多から飛行機で来院された患者さんです。同業者に話すと驚かれることが多いのですが、海外からも来院される方がいるためイレギュラーではありません。
直接修復のメリットを最大限に生かすことで、既成概念に束縛されない診療システムを構築しているため、柔軟に対応できるのです。

20代女性です。「10代前半から矯正治療を継続しているのだが、空隙が残ったまま矯正を終わりにして下の前歯を全部削ってブリッジを入れることになった。いきなり麻酔を入れられて削られそうになった。矯正を続けると言ってコイルを入れたのに、今回は矯正を終わりにすることになっていた。」と訴えておりました。
医療従事者は患者さんの訴えを戯言のように取り扱うことが多いのですが、患者さんの訴えは正しいことが多いです。
私だったら何年も矯正したのにも関わらず「やっぱり駄目でした。削ってブリッジ入れましょう」では納得できません。
本人の希望は矯正を終わりにして、すき間にダイレクトブリッジを入れて欲しい、と訴えておりました。

矯正装置の撤去を行い、直接ブリッジを成形することとしました。矯正治療後の動揺が残っており、本来なら歯根膜が安定してからが理想的です。ただし、今回は遠方からの来院であることと、ダイレクトブリッジ自体にT-Fixの作用があるため、施術に踏み切りました。

口腔内で歯牙を直接造形します。今回のケースでは萌出後の天然歯の解剖学的形態が残っていたため、マメロンなどをできる限り再現しました。一般的に成人のほとんどでは咬耗によって消失しているため、再現する必要性はありません。
ちなみにラバーダムを装着した状態でガイド無しのダイレクトブリッジは非常に難易度が高いです。特にダイレクトブリッジの歯肉側の形態付与は心が折れそうになりながら処置しています。

術後の写真です。上下中切歯の正中部はダイレクトボンディングにて対処しました。3時間近く施術に時間がかかったため、患者さんの負担も相当だったと思います。しかし1日でここまで仕上げることができます。従来型の補綴治療では考えられないスピードです。オープンバイトであるため臼歯部への負担を軽減するために、ガイド付きのマウスピースを入れたかったのですが、時間が許さず製作まで進めませんでした。
本症例の処置は賛否両論であることを承知しております。しかし他のどの治療方法よりも短期間で、超低侵襲で、可逆的です。ダイレクトブリッジもダイレクトボンディングも歯質をほとんど削除しておらず、除去すれば元に戻せます。そして他の治療に変更できます。矯正の修正や補綴処置を行う余地が残っているため、今後の口腔内の変化に柔軟に対応できます。
経過観察できないのが残念ですが、良好に経過していることをお祈りします。