ダイレクトブリッジの失敗と対応

 ダイレクトブリッジは確立された治療方法ではなく、それ故に不確実性を有する治療です。施術者は「トラブルが起こるかもしれない」という意識のもとで処置を進めるべきです。「トラブルが起こる」「失敗する」などのマイナス思考そのものを非難する先生もいますが、100%成功する治療は未だかつて存在せず、不測事態を含めた治療計画を立てることは大切なことだと思います。

 失敗症例を公開することに、かなり躊躇しました。しかし多くの人のためになると思い公開に踏み切りました。参考にしていただけると幸いです。

 


 30代女性の方です。市外からの来院です。かぶせ物がとれたため近隣の歯科医院を受診したところ、抜歯の必要性とインプラント治療について説明を受けたそうです。ご自身で調べてダイレクトブリッジ処置を知り、当医院に来院されました。

 垂直性の歯根破折を認めたため、当医院でも保存不可能であることと、抜歯について了承を得ました。

 



抜歯後、即日でダイレクトブリッジの装着を行いました。模型上で想定していたよりも歯肉の陥没が大きく、審美的とは言えない仕上がりとなってしまいました。

 


 約2週間後に形態修正を行いました。歯肉側および歯冠側にCRを添加しました。ポンティック歯肉側への添加はテクニカルですが、慣れれば通常のアポイント時間内で可能です。形態修正を容易に行えることはダイレクトブリッジならではのメリットです。

 正直、これで終了だと考えていました・・・。

 


 わずか2日後にポンティック部が脱離しました。幸いにも隣在歯に影響は認められませんでした。歯冠側へのCR添加によって咬合干渉が発生し脱離に至った、と考えました。

 


 脱離したポンティックを活かして再度装着しました。念のために咬合調整も行っております。しかし、前の段階でもポンティックにはほとんど咬合させないように調整しており、ポンティックにも咬合の痕跡がまったくありませんでした。確信できる原因でなく、モヤモヤしていました。

 

 そこで、以前から緊密に連絡を取っている補綴学分野の大学教授に、本症例の相談をしました。(名前は本人の了承を得ていないため伏せさせていただきます)

 

そこでご教授いただいたことを要約すると

 

・23が33とガイドしていない。側方運動時に32が23を唇側遠心方向への側方力がかかっている。

・21は側方運動および前方運動時に唇側・近心方向に力がかかっている。

・この場合、ポンティックには接着を剥離する方向に力が発生するため、接着性ブリッジが脱離した可能性が高い。

・3番を含む接着性ブリッジのダツリの症例報告が上がってきており、現時点での対応としては補綴歯と同一のベクトル方向の力が発生する歯牙でカンチレバーにしたほうが予後が良いのではないか。

 

 まさに視界が開けるとは、このことだと思います。私一人だけで考えただけでは、得ることのできなかった貴重な意見を頂くことができました。接着性ブリッジのカンチレバーは力学的に不可能だというバイアスが私の中にあり、それを調べようとすらしなかった自分を猛烈に反省しました。

 


前回のダツリから1年1か月後に23とポンティックの接合部にクラックが入りました。本人も動いている感じがするとのことで、修正処置に移りました。

 


 21とのカンチレバーに変更しました。患者さんには何度も修正・修理をさせてしまい本当に申し訳ありませんでした。ですが、もしこれが通常のブリッジだったら、インプラントだったらどうやって対応したか、そもそも修正できるのか・・・。ダイレクトブリッジはトラブルや術後変化に柔軟に対応できることの利点を切実に実感しました。

 


 カンチレバーに変更して3ヶ月後、最初にダイレクトブリッジを装着して約1年6ヶ月の経過観察です。経過良好で本人も違和感なく生活できている、とのことでした。今後も良好に経過することをお祈りします。

 

 なにか問題が起こった時に、ひとりで抱え込まずに助けを求めることは逃げることではありません。問題が大きくなることを未然に防ぐことができるだけでなく、新たな視点から意見を頂けることで、新たな解決の糸口が、あっさり見つかることもあります。

 私は良き師範に恵まれ本当に幸せ者です。優秀な先輩方に少しでも近づけるよう、よりいっそう努力しなければなりません。

 

* 注意事項 *

 

こちらのページは東松山グリーン歯科の渡部誠弘が個人運営する勉強会での向上と研鑽を目的とした歯科医師向けコンテンツです。

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

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