歯根嚢胞の摘出で抜歯を回避した長期症例

 自分で言うのも気が引けるのですが、歯医者さんって世間のイメージがあまりよくないです。週刊誌で叩かれ、ネットの口コミでは悪い評価ばかり…。

でも、ほとんどの歯科医師は限られた時間で自身の最善を尽くそうとします。かばっているわけではなく事実です。私は多くの歯科医師に話を聞いていますが、悪意を持って故意に歯を破壊する歯科医師に会ったことがありません。

 

なのに、なぜ世間体が悪いのか。

それは歯科医師が自身の最善を尽くそうとするからです。最善を尽くそうとする故に、患者さんとの食い違いが生じてしまい、すれ違いが生じてしまうのです。

 


近所の歯科医院で「今すぐ抜歯しないと隣の歯ごと全部なくなってしまう。かなり危険な状態だ」といった説明を受けて怖くなったと訴えておりました。


デンタルよりかなり大きな根尖病変を認めます。

縁上の歯質もほとんどの失っており、多くの先生が抜歯適応と判断するでしょう。

 


 幸いにも歯根破折を起こしておらず、保存可能と判断しました。

通法に従い根管治療、ファイバーポストによる支台築造を行いました。根管治療のみでは不安が残るため、患者さんと相談の上で根尖部の掻爬および逆根管充填を施術しております。

この際、嚢胞を摘出しております。キラキラと光るコレステリン結晶様の物質が嚢胞内容物に認められたことより、歯根嚢胞の可能性が高いと判断しました。

頬側および口蓋側の骨壁は完全に破壊しており、治癒への影響が懸念されます。

MTAにて逆根管充填しております。術中の写真は出血が多い写真であるため割愛します。

 


嚢胞摘出から半年後に最終補綴を装着しました。

 


約2年後の経過観察です。根尖の骨欠損の縮小が認められます。自覚症状もなく経過良好です。

 


 約5年後の経過観察です。根尖の骨欠損はかなり小さくなりましたが、完全消失までには至りませんでしたが、自覚症状がなく良好に経過しております。

この時は転倒による21切縁の破折を主訴に来院されたため、CRにて修復しております。

当初は抜歯しかないとあきらめていた歯を5年間、無症状で経過させることに成功できました。

 

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誰もがつい自分ができることをしようとしてしまって、本人にとって何がいいのかをあまり考えなくなることがある。正しいと思えば思うほど視野狭窄してしまう。

 

対話力は自殺希少地域の特徴だとあとでわかることになる。私の困りごとを聞き、私のニーズを私の存在を見ながら感じてくれて、その感じたことを私にまた話してくれて、決して私を説得しようとはしなかった。それはとても心地の良い時間だった。

 

 

 森川すいめい著 その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域」を行く

 

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冒頭で述べたように、歯科医師は自分ができる最善を尽くします。

しかし、その最善策は患者さんにとって最善とは限りません。

ほとんどの歯科医院は一人の患者さんに十分な時間を確保できません。

ゆえに効率化の名のもと、一方的な説明による最善策の押し付けになってしまうのです。

押し付けられて、喜べって言われても、納得できませんよね。

 

 

困っている人がいたら「ああしろ こうしろ」と言いたくなる気持ちを抑えて

「私に何ができますか」と聞く。

これだけで、救われることがあると思います。

 

 

ご相談はワタベデンタルにて受け付けております。

・注意事項

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