歯根破折歯の保存

歯根破折歯は一般的には抜歯の対象です。しかしその破折部位次第では保存することが可能です。

接着技術の向上やファイバーポストなどの新素材の登場で、過去には抜歯以外の選択肢がなかった歯も保存することができるようになりました。

 


「歯が半分に割れてしまい、近医にて抜歯と言われたが残したい」ことを主訴に来院されました。該当歯にう蝕病変がなく、外傷性咬合による歯冠・歯根破折疑いのもと処置に移りました。

綿栓にパラホルムアルデヒドと思われる薬剤が貼薬されており、ストッピングにて仮封されていました。

 


歯間部の破折は垂直性でしたが歯根部の破折線は舌側方向に曲がっており、根管部に破折線が到達していませんでした。しかし、破折線は骨縁下であり抜歯の適応といえます。

 


 患者さんは歯の保存を強く希望されていました。しかしこの状態ではインフェクションコントロールの観点から根管処置を行うことができません。つまりラバーダムを装着することができません。そこで、クラウンレングスニングにて残存歯質を確保したうえで、隔壁形成を行いました。

私の根管処置はオーソドックスな2回法です。

 

  1. ニッケルチタンファイルにて#35以上で根管形成
  2. 3%ヒポクロ+3%EDTAにて洗浄
  3. 精製水と混和した水酸化カルシウムを貼薬
  4. 2~3週間後に根管充塡

基本的に上記の流れで根管処置を行います。

ラバーダムは100%装着しています。ラバーダムひとつで処置後の不快症状が激減するだけでなく、治療回数も大幅に減ります。もうラバーダム無しの根治は考えられません。使ってない先生は感情的に嫌がらずに使ってみてください。勤務医の先生は院長を説得しましょう!

 

根管処置後、ファイバーコアによる支台築造を行いました。


 ゴールドクラウン装着後の写真です。患者さんには遠方から通院していただき誠に感謝しております。治療回数が多かったため大変恐縮です。

 適切な診査・診断は非常に重要です。抜歯と決めてしまうと欠損補綴ばかりに注目してしまい、真に大切な保存の可否が疎かになってしまいます。抜歯してしまったら後戻りはできません。最後まで慎重な姿勢を貫くことは大切だと思います。

 


 5か月後の写真です。舌側のプラークコントロールが難しいのですが、患者さんに丁寧に磨いてもらっている為、良好に経過しております。

夜間ブラキシズムによる負担を考慮してナイトガードを装着しています。しかしファセットが認められることから、日中のくいしばりが推測されます。患者さんにはパラファンクションに対する行動認知療法を行っているのですが、慎重な経過観察が必要です。

 

ご相談はワタベデンタルにて受け付けております。

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。